2025年、政府は薬剤師を含む医療従事者のベースアップ(賃上げ)を2%とする目標を掲げています。
しかし現場では、厳しい調剤報酬改定や薬価改定、インフレによるコスト上昇が重なり、賃上げを実現できていない薬局も少なくありません。
実際に、全国の薬局の約45%が経営悪化を訴えているというデータもあり、ベースアップは厳しいのが現実です。
そんな中、ドラッグストア業界は堅調な成長を続け、多くの企業が賃上げに対応しています。
本記事では、現役ドラッグストア薬剤師リーダーの視点から、
「ベースアップが実現しにくい構造的な背景」
「なぜドラッグストア薬剤師が賃上げに強いのか」
について解説していきます。
「やめたい」が口癖なのに、
リーダーに出世した現役DgS薬剤師
- 現役ドラッグストア薬剤師
- 複数店舗を担当するエリアリーダー
- 中小調剤薬局グループで経営者の修行中
ドラッグストア薬剤師の
リアルな働き方や
採用する側の視点をふまえて
転職について発信しています。

薬局の現状:経営悪化と賃上げ困難の背景
近年、薬局業界では経営環境が急速に悪化しています。
近年、医療費の高騰により国の財政が圧迫され、調剤報酬改定や薬価改定は厳しい状況です。
2024年の調剤報酬改定では、技術料の引き下げや点数調整により、薬局の収益が大きく圧迫されました。
さらに、人件費や電気代などの固定費は上昇を続けており、そこに追い打ちをかける形でインフレによる物価高が経営を直撃しています。
薬局経営者の間でも「報酬改定の影響で黒字を確保するのが難しくなった」という声が広がっている状況です。
実際に、日本保険薬局協会は2025年5月15日の定例会見にて
「経営が悪化した」と答えた割合が45%にのぼったことが報告されています。
(出典:【ドラビズ on-line】ドラッグストアと薬局のビジネスマガジン)
このような状況では、政府が掲げる「2025年ベースアップ2%」の目標があっても、
現場では「ベースアップしたくても、原資が足りない」というジレンマが発生しているのが実態です。
特に中小規模の薬局では、1人の薬剤師あたりの人件費比率が高く、
わずか数%の賃上げでも大きなコスト増につながるため、経営判断として賃上げを見送らざるを得ないケースも少なくありません。
2025年のベースアップ目標と現場のギャップ
政府は、2025年度も医療・介護分野の従事者に対して「2.0%のベースアップ(賃上げ)」を推進する方針を示しています。

~ 今考えていただきたいこと(薬局)~」
さらに、「医療・介護等分野の処遇改善」では、ベースアップ分の財源を確保するための議論が行われているものの、現在の医療財政や少子高齢化に伴う国費圧縮の流れの中では、「絵に描いた餅」で終わる可能性もあります。
実際の現場では、
- 「改定で収入は減ったのに、賃上げ要請だけが来る」
- 「2%ベースアップと言われても、どこにそんな余裕があるのか」
といった声も聞かれます。
ベースアップは、あくまで“企業が実施すべきもの”であり、強制力のある制度ではありません。
東京都薬剤師会の会見においても、調剤基本料での対応が十分に反映されていない可能性について言及されています。
(出典:【ドラビズ on-line】ドラッグストアと薬局のビジネスマガジン)
経営体力の乏しい薬局では、国の目標を達成できないケースが続出しているのが実態です。
ドラッグストア業界の成長と人件費対応力
調剤薬局が調剤報酬改定によって苦境に立たされる一方、ドラッグストア業界は物販・調剤の両軸で成長を続けています。
たとえば、ウエルシアホールディングスの2026年2月期第1四半期決算によると、売上高3344億2800万円(前年同期比9.7%増)、営業利益78億1300万円(42.1%増)、経常利益92億1300万円(41.0%増)と堅調に推移しています。
(出典:流通ニュース)
前年は利益面では一部のコスト増(電気代・人件費)による減益が見られたものの、調剤併設店舗の拡大やOTC・日用品の安定した需要に支えられ、全体としては堅調な成長が維持されました。
こうした背景には、以下のような構造的な強みがあります。
- 複数の収益源を持っている(OTC、化粧品、食品、PB商品など)
- 調剤だけに依存せず、物販部門で利益を確保できる
- 規模の経済が働き、人件費増加にも耐えやすい
- 株主・市場からの「賃上げ圧力」が高く、対応姿勢を示す必要がある
実際に、大手ドラッグストア各社では、最低賃金引き上げや物価上昇に対応する形で、ベースアップや初任給の引き上げを実施している企業も見られます。
ウエルシア | 正社員平均15,982円(4.89%) |
---|---|
スギ薬局 | 正社員平均20,555円(6.07%) |
参考:流通ニュース
これらの動きからも分かるように、ドラッグストアは「物販×調剤」のハイブリッドな収益構造によって、人件費上昇の波にも柔軟に対応できることが大きな強みです。
薬剤師として年収を守るには?職場選びの視点
インフレが続き、生活費が上昇するなか、薬剤師にとっても「実質賃金をいかに維持・向上させるか」は重要なテーマです。
国が掲げるベースアップ目標が現場で実現されないケースが多い今、年収を守るためには職場選びの視点そのものを変える必要があります。
賃上げを望むなら「収益性×人材投資」の視点が必要
調剤薬局のように収益源が限られた業態では、物価上昇のなかで人件費を増やすのは難しくなりがちです。
一方で、ドラッグストアは物販やPB商品など、複数の利益源を持ち合わせており、人件費の引き上げにも耐性があります。
- 「売上が伸びている会社か?」
- 「人材投資を重視している経営か?」
- 「年功ではなく成果や実力に応じて評価されるか?」
といった視点で職場を見直すことが、今後ますます重要になります。
ドラッグストア薬剤師は“収入と自由”を両立しやすい
また、ドラッグストア薬剤師は「収入が安定しやすい」だけでなく、
- 調剤とOTCの両方に携われることでスキルの幅が広がる
- 管理薬剤師やマネジメント職へのキャリアパスが多い
- 店舗によっては時短勤務や週休3日などの柔軟な働き方も可能
といった点から、年収を維持しつつ、自分らしいライフスタイルも実現しやすい傾向にあります。
また、副業やFIRE(経済的自立・早期リタイア)を目指す人にとっても、ドラッグストアの収入と制度は魅力となり得ます。
まとめ:2025年、薬剤師が選ぶべき“働き方”とは?
2025年、薬剤師を取り巻く環境は大きな転換点を迎えています。
政府が掲げる「2%のベースアップ目標」に対して、現場では「原資が確保できない」「実際は昇給がない」といった声が相次ぎ、約45%の薬局が「経営が悪化している」と回答しているという現実があります。
その一方で、ドラッグストア業界は堅調な成長を続け、賃上げへの対応力も高い。
調剤に加えて物販やOTC、PB商品など、多角的な収益構造を持つことで、コスト増に柔軟に対応できる強さがあります。
今後の薬剤師に必要なのは、「資格×戦略」
薬剤師は国家資格という“強いカード”を持っていますが、
同じ薬剤師という資格を持っていても、働く場所によって年収・将来性・選択肢は大きく異なります。
- インフレ下でも賃上げされる会社か?
- キャリアパスがあるか?
- 自分の生活スタイルに合っているか?
これらを見極めたうえで、自分の「将来を守れる職場」を選ぶことが大切です。
🔸 ドラッグストア薬剤師という選択は、“攻め”のキャリア戦略
今後ますます厳しくなる調剤報酬改定の流れを考えれば、
「収入を守りながらキャリアを伸ばせる場所」として、ドラッグストアは有力な選択肢の一つです。
単なる転職ではなく、生き方そのものを見直す“戦略的な職場選び”として、
「収入源の多い会社に身を置く」「評価されやすい環境を選ぶ」ことが、薬剤師にも求められています。
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